用語集
全27件の神経科学用語を収録しています。
- 慢性痛
- 慢性痛(まんせいつう)は、通常の病気や怪我(けが)が治る期間(おおむね3ヶ月)を超えても持続する痛みのことです。単なる症状ではなく、痛みそのものが病気として扱われることがあります。これは、痛みを伝える神経回路(しんけいかいろ)が過敏(かびん)になったり、脳(のう)が痛みの信号を誤って処理し続けたりすることで生じます。生活の質を著しく低下させるため、身体的(しんたいてき)な治療だけでなく、心理的(しんりてき)な側面からのアプローチも重要になります。 【図解】第13回講義ノート 図1:急性痛と慢性痛の違い 【図解】第24回講義ノート 図2:嗅覚経路と辺縁系:感情と痛みの交差点 [神経系] 脳, 痛み, 情動・心理, 治療・リハビリ
- 局在神経学
- 局在神経学(きょくざいしんけいがく)は、脳や脊髄(せきずい)などの中枢神経系(ちゅうすうしんけいけい)の特定の場所(局所)に生じた病変(びょうへん)が、体のどの機能(運動、感覚、言語など)の異常(症状)として現れるかを詳細に調べる医学分野です。この学問の目的は、患者さんの症状から病変のある正確な位置(部位診断)を特定し、適切な治療につなげることです。神経経路(しんけいけいろ)の解剖学的な知識が非常に重要になります。 [神経系] 脊髄, 感覚, 運動, 臨床検査, 治療・リハビリ
- 内因性オピオイド
- 辺縁系や側坐核がポジティブに活性化されると体内で産生される鎮痛物質。手技療法(外因性刺激)と異なり、脳内から分泌される鎮痛物質には副作用がない。 [神経生理学] 脳, 痛み, 情動・心理, 治療・リハビリ
- ゲートコントロール機構
- ゲートコントロール機構(ゲートコントロールきこう)は、痛みの感覚が脳へ伝わるのを脊髄(せきずい)のレベルで「門(ゲート)」のように調節する仕組みです。皮膚をさすったり温めたりといった非侵害的な刺激(ひしんがい-てきな-しげき)が、痛みを伝える細い神経線維(しんけいせんい)の信号よりも優先的に脊髄の「門」を閉じさせ、その結果、脳へ伝わる痛みの情報量を減らして痛みを和らげる役割を果たしています。この理論は、痛みの治療法(ちりょうほう)やTENS(経皮的電気神経刺激)などの開発に大きく貢献しました。 [神経系] 脊髄, 痛み, 感覚, 治療・リハビリ
- グロープラグ
- **用語:** グロープラグ (Glow Plug)
**カテゴリ:** 臨床概念
**定義:**
グロープラグは、自動車工学の用語を転用した臨床概念であり、痛みの治療において即効性はないが、継続的な刺激や介入によって遅れて効果が現れる現象、またはその介入自体を指す。特に慢性疼痛や中枢感作が関与する場合、神経系の可塑性変化を促すには時間を要するため、即座の効果を求めず、持続的な治療の重要性を説明する際に用いられる。 [臨床神経学] 痛み, 治療・リハビリ
- 亜急性 (あきゅうせい) Subacute
- 急性期(発症後2〜3日)と慢性期(6ヶ月以上)の中間段階(3日〜6ヶ月)。この時期に神経の感作が進行し、適切な治療介入がなければ慢性疼痛へ移行するリスクが高まる。 [臨床神経学] 痛み, 治療・リハビリ
- 医源性 (いげんせい)
- 医療行為や医療者の言動・態度・環境によって引き起こされる現象を指す形容詞。医源性プラシーボ(治療者との信頼関係・環境的条件付けによる鎮痛効果)と医源性ノセボ(不適切な説明や態度による痛みの増悪)の両面がある。 [臨床神経学] 痛み, 治療・リハビリ
- イネートインテリジェンス (いねーといんてりじぇんす) Innate Intelligence
- 生体が先天的に備えている自律的な修復・調整機能の総称。カイロプラクティック哲学に由来する概念で、神経系を介した恒常性維持(ホメオスタシス)の能力を指す。手技療法においては、施術者が「治す」のではなく、このイネートインテリジェンスが最大限に発動するよう環境と機能のエラーを整えることが本質的な役割であるとされる。 [臨床医学] 治療・リハビリ
- 緊張性頭痛 (きんちょうせいずつう)
- 頭周囲の筋肉の疲労・酸素栄養枯渇によりTCAサイクルが停止し、ATP不足でアクチン・ミオシンの架橋がロックされた状態(頭重感)。拍動性頭痛の前段階。外呼吸・内呼吸の正常化によるATP産生回復が根本的な治療アプローチとなる。 [症状] 筋肉, 脳, 痛み, 治療・リハビリ
- 幻肢痛 (げんしつう) Phantom limb pain
- 切断などにより手足を失った後も、存在しないはずの部位に痛みや感覚を感じる現象。脳の第一次感覚野(体性感覚野)にある「脳内地図(ホムンクルス)」の混乱が原因。末梢からの入力が途絶えると、脳はその空白を埋めようとして地図を書き換え、隣接する身体部位の感覚が侵入することで痛みが生じる。ミラーセラピーが有効な治療法として知られる。 [病態生理学] 痛み, 感覚, 治療・リハビリ
- ゴルジ腱器官 (ごるじけんきかん)
- 腱に存在するⅠb線維の感覚受容器。筋肉の張力(収縮力)を感知する。アジャストメント(スラスト)では関節を極限まで絞り込んだ瞬間に高速低振幅の刺激を加えることでⅠb線維を爆発的に発火させ、抑制性インターニューロンを介してアルファモーターニューロンをシャットダウン(筋弛緩)させる。 [神経系] 筋肉, 関節, 感覚, 治療・リハビリ
- 自原性抑制 (じげんせいよくせい)
- 腱紡錘(1B)が30-90秒間の持続的張力により発火し、脳が「緩めても安全だ」と判断して筋肉を弛緩させる現象。真のストレッチ効果のメカニズム。 【図解】第21回講義ノート 図2:1Aと1Bの使い分け 筋肉, 治療・リハビリ
- 消去法 (しょうきょほう)
- 治療において「何かを加える」のではなく「不必要な入力・刺激を取り除く」視点。神経系の過緊張を解き、脳が自ら痛みを抑制できる環境を整えることを目的とする。 [臨床神経学] 痛み, 治療・リハビリ
- 随伴不活 (ずいはんふかつ)
- 一つの神経が興奮すると隣接エリアも連動して活性化する現象。眼球運動→中脳→VTA→側坐核の連鎖発火(眼球運動リハビリの鎮痛メカニズム)に関与する。 [神経生理学] 脳, 痛み, 運動, 眼・視覚, 治療・リハビリ
- スロー・リハビリテーション (すろー・りはびりてーしょん) Slow Rehabilitation
- すべての検査および運動指導を「ゆっくり、直線的に」行うリハビリテーション手法。感覚の切り替えを脳に学習させ、破損した回路の再構築を促す。第34回講義ノート「垂直系前庭神経路の臨床解剖」で詳しく解説。 [臨床神経学] 感覚, 運動, 聴覚・前庭, 臨床検査, 治療・リハビリ
- 舌下神経 (ぜっかしんけい) Hypoglossal Nerve (CN XII)
- 第十二脳神経。延髄から出て、舌の運動を司る。舌下神経麻痺では舌が麻痺側に偏位し、呂律が回らなくなる。動眼神経・滑車神経・外転神経と発生学的な相同性を持つため、眼球運動と舌の動きを連動させるリハビリテーションが有効である。 [脳神経] 脳, 末梢神経, 運動, 眼・視覚, 嚥下・発声, 治療・リハビリ
- 前頭眼野 (ぜんとうがんや)
- 前頭葉(ブロードマンエリア8)に位置し、随意的な眼球運動(衝動性眼球運動・サッケード)の司令塔となる大脳皮質領域。慢性疼痛や前頭葉機能低下の患者では、この領域の活動が著しく低下し、視線が固定されるか不自然に泳ぐ現象として臨床的に観察できる。眼球運動リハビリテーションによる前頭葉覚醒の主要なターゲット。 [神経系] 脳, 痛み, 運動, 眼・視覚, 治療・リハビリ
- 相同性 (そうどうせい) Homology
- 発生学的に同じ起源を持つ構造や神経核が、機能的にも連動しやすい性質。脳幹を縦に走る動眼神経・滑車神経・外転神経・舌下神経の核は相同関係にあり、一つの神経が発火すると仲間も連動して発火しやすい。臨床では、舌の動きが悪い患者に眼球運動を併用させることで、脳幹全体を再起動(リプログラミング)させるリハビリテーションに応用される。 【図解】第24回講義ノート 図1:外眼筋の単独作用と眼位 【図解】第24回講義ノート 図2:嗅覚経路と辺縁系:感情と痛みの交差点 【図解】第30回講義ノート 図2:三叉・顔面神経による聴覚調整機構 [神経学] 筋肉, 脳, 末梢神経, 痛み, 運動, 眼・視覚, 聴覚・前庭, 嚥下・発声, 情動・心理, 治療・リハビリ
- 痛覚マップ (つうかくまっぷ) Pain Map / Nociceptive Mapping
- 前腕、上腕、顔、首などの左右対称なポイントにピンやハサミの先端で微細な圧を加え、その「左右の感じ方の差」を系統的にスコアリングして記録する臨床評価法。感作(過敏化)を起こしている髄節セグメントをピンポイントで特定し、治療効果を客観的に追跡するための羅針盤となる。痛覚の左右対称性の回復が治療成功の指標となる。 [臨床医学] 筋肉, 脊髄, 痛み, 治療・リハビリ
- 腹式呼吸 (ふくしきこきゅう) Diaphragmatic breathing
- 横隔膜を主動筋として行う深い呼吸法。副交感神経を優位にし、下降性疼痛調整系を活性化させる。慢性痛の治療において、酸素供給の最大化と自律神経バランスの回復に有効な手技。 [臨床神経学] 筋肉, 痛み, 自律神経, 治療・リハビリ
- プラシーボ (ぷらしーぼ)
- 治療作用のない物質(疑似薬)を投与しても良好な結果が出る現象。語源はラテン語「私は主を喜ばせる」。現代神経科学では、脳の期待感・条件付けが側坐核→PAG→内因性オピオイド系を駆動することで本物の鎮痛が生じると解明されている。 [神経学] 脳, 痛み, 治療・リハビリ
- 弁別 (べんべつ)
- 臨床において、患者の痛みが急性の侵害受容性疼痛なのか、中枢の誤作動による慢性痛なのかを見極める能力。適切な治療介入の選択に不可欠なスキル。 [臨床神経学] 痛み, 治療・リハビリ
- マイクロ牽引 (まいくろけんいん) Micro Traction
- 筋肉が反発するギリギリのトーン(緊張)を捉え、微小な牽引力を加える治療技術。神経学的な手技において非常に示唆に富むアプローチで、この極めて繊細な刺激が、筋紡錘を介して中枢(脳)をリセットし、異常なトーンを解除する。これは力尽くの矯正ではなく、神経という「精密な情報網」との対話である。 [臨床神経学] 筋肉, 臨床検査, 治療・リハビリ
- ミラーセラピー (みらーせらぴー) Mirror therapy
- ラマチャンドラン博士(V.S. Ramachandran)が提唱した幻肢痛の治療法。鏡を用いて健側(健康な手足)の動きを患者に視覚的に提示することで、脳が「失われた手足が動いている」と認識し、脳内地図を再整理して痛みを軽減させる。視覚という「刺激」を用いた脳の再プログラミング(神経可塑性の活用)である。幻肢痛のほか、脳卒中後の麻痺リハビリにも応用される。 [臨床神経学] 痛み, 眼・視覚, 治療・リハビリ
- 無感覚痛 (むかんかくつう) Anesthesia dolorosa
- 感覚が麻痺または消失しているにもかかわらず、その部位に痛みを感じる状態。求心路遮断性疼痛の一形態。手術後の癒着や長年の放置による感覚麻痺が原因となることが多い。治療の標的は痛みそのものではなく、失われた「感覚(求心性入力)」の復元である。 [病態生理学] 痛み, 感覚, 治療・リハビリ
- レコーディング療法 (レコーディングりょうほう)
- 患者に症状の発生状況を手書きで詳細に記録してもらう治療法。指先の複雑な動きが脳を広範囲に活性化させ、古い記憶や感情を整理しやすくする。文字に起こすプロセス自体が、過敏になった脳を沈め、神経の異常興奮を抑える「脳の再学習」として機能する。 [臨床神経学] 情動・心理, 治療・リハビリ
- ワインドアップ (わいんどあっぷ)
- 神経系の機能が活性化し、生命力が高まる状態。感覚受容器の左右差を調律し、視床からの出力を適正化することで、患者の心と体をワインドアップさせることが治療の目標である。 [臨床神経学] 脳, 感覚, 治療・リハビリ