用語集

全37件の神経科学用語を収録しています。

呼気
呼気(Expiration)は、肺内の二酸化炭素を多く含むガスを体外へ排出する生理現象である。これは主に横隔膜や肋間筋の弛緩による胸腔容積の減少によって受動的に行われるが、強制呼気時には腹筋群が能動的に関与する。自律神経系と深く関連し、呼吸パターンは心拍変動や疼痛閾値にも影響を与えるため、臨床ではリラクセーションや体幹安定化の指標として重要視される。 [生理学] 筋肉, 内臓, 痛み, 自律神経
吸気
吸気(きゅうき)とは、横隔膜や外肋間筋の収縮により胸腔が拡大し、肺内に外気を取り込む能動的な生理現象である。これは自律神経系によって制御される生命維持に必須のプロセスであり、酸素を取り込み二酸化炭素を排出するガス交換の第一段階を担う。呼吸パターンは姿勢制御や疼痛閾値にも影響を与えるため、臨床的には重要である。 [生理学] 筋肉, 内臓, 痛み, 運動, 自律神経
アミラーゼ (あみらーぜ)
デンプンを分解する消化酵素。耳下腺から分泌され、炭水化物の消化を促進する。 【図解】第28回講義ノート 図2:耳下腺アミラーゼ分泌と咀嚼反射の神経経路 [生理学] 運動, 臨床検査
閾値 (いきち) Threshold
神経や受容器が反応を起こすために必要な最小刺激強度。閾値が高いほど反応しにくく(高閾値)、低いほど反応しやすい(低閾値)。炎症性メディエーターやストレスにより閾値が低下すると、通常では痛みを感じない刺激でも発火する「過敏化(感作)」が生じる。 [生理学] 痛み, 感覚, 情動・心理
ATP (えーてぃーぴー) Adenosine Triphosphate
細胞のエネルギー通貨として機能する分子。神経細胞の活動、神経伝達物質の放出、イオンポンプの駆動、細胞の修復など、あらゆる生命活動にATPが必要である。酸素は神経のエネルギー(ATP)産生の燃料であり、燃料がなければ神経は自己修復すらままならず、痛みは長引く一方となる。横隔膜が十分に可動できず、慢性的な酸欠状態に陥ることは、神経機能の低下に直結する。 [生理学] 筋肉, 痛み
ATP産生 (えーてぃーぴーさんせい)
ミトコンドリアで行われるエネルギー生成過程。酸素を用いた好気的代謝により、グルコースからATP(アデノシン三リン酸)を合成する。神経系の膜電位維持ポンプはATPに依存しており、低気圧による酸素供給効率の低下はATP産生低下を招き、神経系の過敏状態や機能低下を引き起こす。【関連記事】第31回講義ノート:前庭神経系の臨床生理学、第3回講義ノート:ATP不足と膜電位の関係。 【図解】第5回講義ノート 図1:ATP不足が痛みを生むメカニズム 【図解】第5回講義ノート 図2:朝の痛みとデスクワーク不調の共通原因 【図解】第28回講義ノート 図2:耳下腺アミラーゼ分泌と咀嚼反射の神経経路 [生理学] 痛み, 運動, 聴覚・前庭, 臨床検査
嚥下反射 (えんげはんしゃ)
食物や液体を口腔から咽頭、食道を経て胃に送り込む反射。舌、軟口蓋、咽頭、喉頭、食道の協調的な運動により成立する。嚥下時には口蓋帆張筋が収縮して耳管を開放し、中耳腔の圧力を調整する。嚥下障害(嚥下困難・誤嚥)がある患者では、耳管機能不全を併発することがある。 [生理学] 筋肉, 内臓, 運動, 聴覚・前庭, 嚥下・発声, 臨床検査
炎症性メディエーター (えんしょうせいめでぃえーたー)
炎症反応を媒介する生理活性物質の総称。ヒスタミン・ブラジキニン・プロスタグランジンなどが含まれ、侵害受容器の閾値を下げて痛みを増強する。 [生理学] 痛み, 感覚
外側系 (がいそくけい)
痛みの伝達経路の一つ。脊髄から視床外側核を経て第一次感覚野に至り、痛みの場所・強さ・性質を識別する機能を担う。 [生理学] 脳, 脊髄, 痛み, 感覚
角膜反射 (かくまくはんしゃ)
角膜に触れると瞬きが起こる反射。三叉神経(求心路)と顔面神経(遠心路)によって媒介される。臨床では、この反射を応用したソフトな刺激により、三叉神経や顔面神経の機能を正常化させるアプローチが用いられる。 [生理学] 末梢神経, 運動, 臨床検査
下降性疼痛調整系 (かこうせいとうつうちょうせいけい) Descending pain modulation system
脳から脊髄へ向かう下行性の痛み抑制・促進システム。中脳水道周囲灰白質(PAG)→延髄吻側腹内側部(RVM)→脊髄後角という経路で、脊髄レベルでの痛み信号の伝達を調整する「脳内の天然の痛み止め」。関節の位置覚・視覚・聴覚・皮膚感覚などの正しい求心性入力によって再起動される。入力不足(求心路遮断)が続くと機能不全に陥り慢性痛の原因となる。 [生理学] 関節, 脳, 脊髄, 痛み, 感覚, 眼・視覚, 聴覚・前庭
可塑的変化 (かそてきへんか) Neuroplastic change
神経系が経験や入力に応じて構造・機能を変化させる性質。慢性痛では、痛みが6ヶ月を超えると脳の可塑的変化が定着し、MRIなどの画像診断で組織異常がなくても痛みが持続する状態となる。 [生理学] 痛み, 臨床検査
活性酸素 (かっせいさんそ) Reactive oxygen species (ROS)
顆粒球が異物を攻撃する際に産生する酸化力の強い酸素化合物。高気圧時に顆粒球が活性化すると活性酸素が増加し、自己免疫疾患(リウマチ・膠原病)では自身の関節組織を攻撃してしまう。これが晴天時にリウマチの痛みが増すパラドックスの原因である。 [生理学] 関節, 痛み, 臨床検査
カルシウム感受性カリウムチャネル (かるしうむかんじゅせいかりうむちゃねる)
細胞内カルシウム濃度の上昇により開口するカリウムイオンチャネル。有毛細胞では脱分極時に流入したカルシウムを感知して開き、カリウムイオンを細胞外に排出することで再分極を促進する。【関連記事】第31回講義ノート:前庭神経系の臨床生理学(図2:イオンチャネルによる電位変換)では、再分極の第4段階でこのチャネルの役割を解説している。 【図解】第32回講義ノート 図2:イオンチャネルによる電位変換メカニズム [生理学] 聴覚・前庭
カルシウムポンプ (かるしうむぽんぷ)
細胞内のカルシウムイオンを能動的に細胞外へ汲み出すタンパク質。ATPをエネルギー源として働き、細胞内カルシウム濃度を正常レベルに維持する。有毛細胞では再分極の最終段階で電位を均衡状態に戻す役割を果たす。【関連記事】第31回講義ノート:前庭神経系の臨床生理学(図2:イオンチャネルによる電位変換)では、カルシウムポンプによる電位の均衡化メカニズムを解説している。 [生理学] 痛み, 聴覚・前庭
機械受容性チャネル (きかいじゅようせいちゃねる)
物理的な力(圧力・張力)により開閉するイオンチャネル。有毛細胞ではチップリンクの張力により直接ゲートが開き、カリウムイオンが流入して受容器電位が発生する。触覚や聴覚、平衡感覚の基礎となる変換機構である。【関連記事】第31回講義ノート:前庭神経系の臨床生理学(図1・図2)では、機械受容性チャネルの開閉メカニズムとイオン流入の詳細を図解している。 【図解】第32回講義ノート 図1:前庭有毛細胞のチップリンク構造と働き 【図解】第32回講義ノート 図2:イオンチャネルによる電位変換メカニズム [生理学] 感覚, 聴覚・前庭
筋紡錘 (きんぼうすい) Muscle Spindle
筋肉内に存在する固有感覚受容器で、筋肉の長さや伸展速度を検出する。この感覚入力が正しく脳で統合されることで、適切な筋緊張(トーン)が維持される。トーンが崩れているということは、筋紡錘などの感覚入力が正しく脳で統合されていないことを意味し、我々が診ているのは筋肉そのものではなく、その裏側に隠れた「神経のトーン」なのである。 [生理学] 筋肉, 関節, 感覚
固有感覚 (こゆうかんかく) Proprioception
身体の位置、運動、力の感覚。筋紡錘、腱紡錘(ゴルジ腱器官)、関節受容器などの固有感覚受容器から得られる情報が、中枢神経系で統合されることで、適切な姿勢制御や運動制御が可能となる。頸椎周辺の筋肉には全身の固有感覚受容器の約80〜90%が集中しており、首の筋肉が過緊張を起こせば、全身のセンサーが狂い始める。 [生理学] 筋肉, 関節, 脊髄, 感覚, 運動
再分極 (さいぶんきょく)
脱分極した細胞膜の電位が静止電位に戻る過程。電位依存性カリウムチャネルやカルシウム感受性カリウムチャネルが開き、カリウムイオンが細胞外に排出されることで実現する。カルシウムポンプによるCa2+の汲み出しも重要である。【関連記事】第31回講義ノート:前庭神経系の臨床生理学(図2:イオンチャネルによる電位変換)では、再分極の4段階のメカニズムを詳細に解説している。 【図解】第32回講義ノート 図2:イオンチャネルによる電位変換メカニズム [生理学] 聴覚・前庭
酸化的リン酸化 (さんかてきリンさんか) Oxidative Phosphorylation
ミトコンドリア内でATPを産生する主要な代謝経路。酸素を消費してエネルギーを生成する。脳は全身で最も酸素を消費する部位であり、その延長である眼球運動系はエネルギー不足の兆候が最も早く現れる「炭鉱のカナリア」と言える。 [生理学] 痛み, 運動, 眼・視覚
軸索輸送 (じくさくゆそう) Axonal transport
神経細胞の軸索内でタンパク質・小胞・オルガネラなどを細胞体と神経終末の間で輸送するメカニズム。細胞体から末梢へ向かう「順行性輸送」と、末梢から細胞体へ向かう「逆行性輸送」がある。キネシン(順行性)やダイニン(逆行性)などのモータータンパク質が担う。障害されると末梢神経障害や神経変性疾患の原因となる。 [生理学] 末梢神経
自発発火 (じはつはっか) Spontaneous firing
外部からの刺激がなくても神経細胞が自律的に活動電位を発生させる現象。神経には微弱な自発発火という性質があり、末梢からの入力(特にAβ線維)が極端に低下すると、後続のニューロンが感度を異常に高めて激しく自発発火し始める。脳はこれを「痛み」として受け取るため、求心路遮断性疼痛・無感覚痛の主要メカニズムとなる。 [生理学] 痛み, 感覚
受容器電位 (じゅようきでんい)
感覚受容器で発生する局所的な電位変化。活動電位とは異なり、刺激の強度に比例して大きさが変化する。有毛細胞では機械受容性チャネルからのカリウム流入により生じ、これが活動電位の発生へと繋がる。【関連記事】第31回講義ノート:前庭神経系の臨床生理学(図2:イオンチャネルによる電位変換)では、受容器電位の発生メカニズムを詳細に解説している。 【図解】第32回講義ノート 図2:イオンチャネルによる電位変換メカニズム [生理学] 感覚, 聴覚・前庭
深部固有感覚 (しんぶこゆうかんかく)
筋肉(筋紡錘)や腱(腱器官)からの情報、あるいは足裏の振動覚によって、目をつぶっていても自分の姿勢を把握できる感覚。1A・1B線維やAβ線維が担っている。 [生理学] 筋肉, 感覚, 運動
スローフェイズ (すろーふぇいず)
眼振において、眼球がゆっくりと一方向に流れる相。小脳の機能低下により、反対側の力に負けて眼球が流される現象。 [生理学] 脳, 運動, 眼・視覚, 聴覚・前庭
脱分極 (だつぶんきょく)
細胞膜の電位が静止電位よりも正の方向に変化する現象。有毛細胞ではカリウムイオンの流入により脱分極が始まり、電位依存性カルシウムチャネルの開口により急激に増強される。神経興奮の基本過程である。【関連記事】第31回講義ノート:前庭神経系の臨床生理学(図2:イオンチャネルによる電位変換)では、脱分極の段階的な増強メカニズムを図解している。 [生理学] 聴覚・前庭
TCAサイクル (てぃーしーえーさいくる) TCA cycle (Citric acid cycle)
クエン酸回路とも呼ばれる細胞内のエネルギー代謝経路。酸素を必要とする好気的代謝であり、ATPを産生する。低気圧時に酸素濃度が低下するとTCAサイクルの効率が落ち、ATP産生が低下する。これが天気痛(気象病)の神経生理学的な原因となる。 [生理学] 痛み
電位依存性カルシウムチャネル (でんいいぞんせいかるしうむちゃねる)
膜電位の上昇により開口するカルシウムイオンチャネル。有毛細胞では受容器電位による脱分極を感知して開き、カルシウムイオンの流入により脱分極を急激に増強する。神経伝達物質の放出にも関与する。【関連記事】第31回講義ノート:前庭神経系の臨床生理学(図2:イオンチャネルによる電位変換)では、カルシウムイオンによる増幅メカニズムを図解している。 [生理学] 感覚, 聴覚・前庭
トーン (とーん) Tone
筋肉の持続的な緊張状態。神経学では、中枢からの下降性調整が正常に機能しているかを評価する指標。筋肉を最大出力で動かさせるのではなく、一定の角度で「維持」してもらい、その際の抵抗感の揺らぎや中枢からの下降性調整が効いているかを確認する。出力(運動)は入力(感覚)に依存しており、トーンが崩れているということは、筋紡錘などの感覚入力が正しく脳で統合されていないことを意味する。 [生理学] 筋肉, 感覚, 運動
内側系 (ないそくけい)
痛みの伝達経路の一つ。脊髄から視床内側核を経て扁桃体・辺縁系に至り、痛みに伴う不快感・恐怖・感情的記憶を形成する。 [生理学] 脳, 脊髄, 痛み, 情動・心理
ヒスタミン (ひすたみん)
マスト細胞や好塩基球から放出される炎症性メディエーター。血管透過性の増加、かゆみ、痛みの増強に関与する。 [生理学] 痛み, 血管・循環
ファストフェイズ (ふぁすとふぇいず)
眼振において、脳が視線のズレを修正しようと眼球を素早く元の位置に戻す相。スローフェイズの後に起こる急速な眼球運動。 [生理学] 運動, 眼・視覚, 聴覚・前庭
ブラジキニン (ぶらじきにん)
組織損傷や炎症時に産生されるペプチド。侵害受容器を直接活性化し、強い痛みと血管拡張を引き起こす代表的な炎症性メディエーター。 [生理学] 痛み, 感覚, 血管・循環
プロスタグランジン (ぷろすたぐらんじん)
アラキドン酸から合成される脂質メディエーター。侵害受容器の感度を高め、発熱・炎症・痛みを増強する。NSAIDsはこの合成を阻害することで鎮痛効果を発揮する。 [生理学] 痛み, 感覚
分泌 (ぶんぴつ) Secretion
腺組織から特定の物質(涙、唾液、ホルモンなど)を産生・放出する生理機能。受容器が「乾き」などの刺激を察知して初めて反射として機能する。分泌機能はミトコンドリアでのATP産生に依存するため、エネルギー代謝の状態が直接影響する。 【図解】第1回講義ノート 図2:耳管開放と口蓋帆張筋の神経経路 【図解】第27回講義ノート 図2:三叉神経(CN V)の眼神経枝と涙分泌反射のメカニズム 【図解】第28回講義ノート 図2:耳下腺アミラーゼ分泌と咀嚼反射の神経経路 [生理学] 筋肉, 末梢神経, 痛み, 感覚, 運動, 眼・視覚, 聴覚・前庭, 嚥下・発声, 内分泌, 臨床検査
偏位 (へんい) Deviation
正常な位置や方向から外れること。神経学的診察では、舌を出してもらった際の偏位が重要な指標となる。舌がどちらかに偏位していれば、それは対側の脳皮質の機能低下を疑うサインとなる。皮質の機能が低下すれば、下降性の調整能力が落ち、結果として末梢の筋肉は異常な緊張(トーン)を強いられる。 [生理学] 筋肉, 嚥下・発声
膜電位 (まくでんい)
神経細胞の細胞膜内外の電位差。通常は約-70mVの静止膜電位を保っているが、ATP産生が低下してナトリウム・カリウムポンプが機能しなくなると、脱分極方向に傾き、神経が異常に発火しやすくなる。 [生理学] 痛み