痛みとしびれは「感じ方」ではなく「処理の問題」である
ロンベルグ検査と下降性疼痛抑制から見える神経の本質
一言サマリー 痛みやしびれは刺激の量ではなく、神経がどのように情報を処理しているかで決まる。ロンベルグ検査(ろんべるぐけんさ)、下降性疼痛(とうつう)抑制、「しびれ」と「しびれ感」の違いから、神経の本質を読み解く。
痛みとしびれは「感じ方」ではなく「処理の問題」である
― ロンベルグ検査と下降性疼痛抑制から見える神経の本質 ―
「天気が悪いと痛みが出る」「触れただけでビリッとする」「しびれているようで、実は痛みではない気がする」――こうした訴えは日常的に聞かれるが、これらを単なる主観的な感覚の違いとして扱ってしまうと、神経の本質は見えてこない。第6回の講義では、痛み・しびれ・違和感といった現象を、神経がどのように情報を処理しているかという視点から整理している。
本稿では、ロンベルグ検査、脊髄(せきずい)後角での痛みの加工、下降性疼痛抑制、そして**「しびれ」と「しびれ感」の違い**を軸に、一般の方にも理解しやすい形でまとめる。
1. ロンベルグ検査が示すものは「異常」ではなく「どこが頼られているか」
ロンベルグ検査は、両足を揃えて立ち、開眼と閉眼で身体の安定性を比較する検査である。一般的には「ふらつくかどうか」が注目されがちだが、重要なのはどの情報で姿勢を保っているかという点である。
検査結果の解釈
| 状態 | 示唆される内容 |
|---|---|
| 閉眼時のみ不安定 | 視覚情報で姿勢を補正していた可能性が高い。深部感覚(関節位置覚や筋紡錘からの入力)が十分に機能していない状態 |
| 開眼・閉眼ともに不安定 | 小脳(しょうのう)系の関与が疑われる |
| 両方とも安定 | 深部感覚・視覚・前庭系のバランスが取れている |
ここで重要なのは、臨床で多く見られるのが病変ではなく機能低下であるという点である。機能低下は、血流、代謝、酸素供給、神経活動の一時的な低下によって起こり得る。そのため、適切な条件が整えば、検査結果がその場で変化することも珍しくない。
2. 痛みは「そのまま上がる」のではなく「加工されている」
痛みは、末梢から中枢へ直線的に伝わるものではない。侵害刺激(Aδ線維(えーでるたせんい)・C線維(しーせんい))は、まず**脊髄後角(せきずいこうかく)(広葉室)**に入力され、そこで抑制も促進も受ける。
同じ刺激でも、
- 痛みとして強く感じる場合
- 違和感程度で済む場合
- まったく意識に上らない場合
があるのは、この段階での処理が異なるためである。
脊髄後角での処理は、上位中枢からの入力に大きく影響される。**青斑核(せいはんかく)(ノルアドレナリン系)や縫線核(ほうせんかく)(セロトニン系)は、脊髄後角のシナプスに抑制をかける役割を担う。これらをまとめて下降性疼痛抑制系(かこうせいとうつうよくせいけい)**と呼ぶ。
ポイント: 痛みは末梢から脳へ「そのまま」伝わるのではなく、脊髄後角で「加工」されてから上位中枢に送られる。
3. 下降性疼痛抑制の最上位にあるのは「大脳皮質(だいのうひしつ)」
下降性疼痛抑制は、単一の経路ではない。中脳(ちゅうのう)水道周辺灰白質、被蓋、青斑核、縫線核を経由し、最終的に脊髄後角へ抑制信号を送る。
そして、その最上位にあるのが大脳皮質である。
情動、注意、安心感、恐怖、不安といった要素は、辺縁系を介して中脳を活性化・抑制し、その結果として痛みの処理に影響を与える。「不安な状態では痛みが強くなる」「安心すると和らぐ」という現象は、気のせいではなく、神経学的な仕組みに基づいている。
下降性疼痛抑制系の構造
| レベル | 関与する構造 | 役割 |
|---|---|---|
| 最上位 | 大脳皮質 | 情動・注意・認知による調整 |
| 中間 | 中脳水道周辺灰白質・被蓋 | 抑制信号の中継・増幅 |
| 実行 | 青斑核・縫線核 | ノルアドレナリン・セロトニンによる脊髄後角の抑制 |
| 最終 | 脊髄後角 | 侵害刺激の入力を調整 |
4. 天気が悪いと痛みが出る理由
低気圧時には空気密度が低下し、酸素供給効率が下がる。酸素はTCAサイクルを回し、ナトリウム・カリウムポンプを正常に働かせるために不可欠である。
酸素不足が起こると、膜電位(まくでんい)は閾値(いきち)に近づき、神経は発火しやすい状態になる。この状態では、通常なら問題にならない刺激が痛みやしびれとして認識されやすくなる。
天気と痛みの関係は、情緒的なものではなく、代謝と神経生理の問題である。
5. 「しびれ」と「しびれ感」は別物である
講義の後半で特に重要なのが、この区別である。
| 用語 | 定義 | 例 |
|---|---|---|
| しびれ | Aδ線維やC線維の低頻度発火による侵害刺激の一形態 | ピリピリ、ジンジンとした不快な感覚 |
| しびれ感 | 痛覚が遮断・低下し、触圧覚は残っている状態(麻痺に近い) | 歯科麻酔後の「しびれている」感覚 |
歯科麻酔後に「しびれている」と感じる状態は、実際には「しびれ感」であり、侵害刺激としてのしびれではない。この区別をしないまま話を進めると、評価も対応も混乱する。
6. ゲートコントロールは「どこを使うか」の問題
太い線維(Aα・Aβ)が細い線維(Aδ・C)を抑制するという関係は、ゲートコントロール理論として知られている。しかし重要なのは、「どのレベルの抑制が低下しているか」である。
- 末梢性の抑制が弱いのか
- 中枢性(下降性)の抑制が弱いのか
- その両方なのか
これを見極めずに刺激を加えると、神経は混乱し、かえって症状が強まることがある。
7. 検査は「答えを出すため」ではなく「地図を描くため」
講義で示された実例では、触覚・二点識別・振動覚を丁寧に比較することで、「神経が壊れている」のではなく、「抑制が効いていない」ことが読み取れた。
このような検査は、正解を当てるためのものではない。神経が今、どの情報を頼り、どこで過剰反応しているのかを把握するための地図作りである。
学習ポイントまとめ
- 痛みやしびれは「刺激の量」ではなく「処理の状態」で決まる
- ロンベルグ検査は、身体が何に頼っているかを示す
- 痛みは脊髄後角で加工され、皮質の状態に強く影響される
- 天気、酸素、代謝は神経の発火閾値に直結する
- 「しびれ」と「しびれ感」は明確に区別する必要がある
関連用語: ロンベルグ検査、脊髄後角、下降性疼痛抑制系、青斑核、縫線核、ゲートコントロール理論、深部感覚、Aδ線維、C線維
関連ノート:
- 「神経はどう動いているのか? ― トーン・電気信号・神経のはたらきの基礎」
- 「なぜ朝がつらく、座り続けると痛みが出やすいのか」
- 「痛みが"強くなる人"と"ならない人"の違い」
- 「神経細胞(しんけいさいぼう)がエネルギーを使って働くしくみ」
情報源
丸山先生の局在神経学講座
講師: 丸山正好(ニューラルヒーリング院長)
講座名: 局在神経学講座
主催: 科学新聞社
受講期間: 2020年8月
本記事は、上記講座で学んだ内容を個人的に整理・要約したものです。
補足学習に使用した教科書・文献
講座内容の理解を深めるため、以下の医学教科書と学術論文を参照しました。
- Kandel ER, Schwartz JH, Jessell TM. Principles of Neural Science. 5th ed. McGraw-Hill; 2013.
- Fitzgerald MJT, Gruener G, Mtui E. Clinical Neuroanatomy and Neuroscience. 7th ed. Elsevier; 2016.
免責事項
本記事は個人の学習記録であり、医療行為・診断・治療を目的としたものではありません。医学的な判断や治療については、必ず医師にご相談ください。